企業の顔として、社会と組織の間に良好な関係を築く「広報」。その戦略的な役割の重要性が増すにつれて、異業種から広報への転職を目指す人が増えています。しかし、専門性が高いイメージから「未経験では難しいのではないか」と不安に感じる方も少なくありません。
結論から言えば、未経験から広報への転職は十分に可能です。ただし、そのためには広報の仕事を正しく理解し、自身の経験やスキルをどのように活かせるかを戦略的にアピールする必要があります。
この記事では、広報の具体的な仕事内容から、未経験者が転職を成功させるための具体的な方法、求められるスキル、効果的な自己PRのポイントまでを網羅的に解説します。広報という仕事のやりがいや厳しさ、キャリアパスについても触れていきますので、これから広報を目指す方はぜひ参考にしてください。
目次
広報の仕事内容とは
広報の仕事は、単に「会社の情報を発信すること」だけではありません。その本質は、企業や組織が社会と良好な関係を築き、維持・発展させていくためのコミュニケーション活動全般を担うことにあります。企業理念や事業内容、製品・サービスの価値を、社内外のさまざまなステークホルダー(利害関係者)に正しく伝え、理解と共感、そして信頼を獲得することがミッションです。
広報の業務は多岐にわたりますが、大きく「社外広報」「社内広報」「IR(投資家向け広報)」の3つの領域に分類できます。それぞれの役割と具体的な仕事内容を見ていきましょう。
社外広報
社外広報は、企業の「外」にいるステークホルダー、すなわち顧客、取引先、メディア、地域社会、官公庁などを対象としたコミュニケーション活動です。企業の知名度やブランドイメージの向上、製品・サービスの販売促進、良好なパブリックイメージの形成などを目的とします。
プレスリリースの作成・配信
プレスリリースは、社外広報の基本かつ最も重要なツールの一つです。新製品・新サービスの発表、業務提携、経営陣の交代、イベント開催、調査結果など、企業に関する新しい情報を公式文書としてまとめ、新聞、テレビ、雑誌、Webメディアといった報道機関に提供します。
単に情報を羅列するのではなく、「なぜこの情報がニュースとして価値があるのか」という視点(ニュースバリュー)を盛り込み、記者が記事を書きやすいように構成することが求められます。タイトルで興味を引き、リード文で結論を述べ、本文で詳細を補足するという構成が一般的です。作成したプレスリリースは、記者クラブへの投げ込み、個別の記者へのメール送付、配信サービスなどを通じてメディアに届けられます。
メディアとの関係構築
メディアリレーションズとも呼ばれ、広報活動の成果を大きく左右する重要な業務です。日頃から新聞記者やテレビ局のディレクター、雑誌編集者、Webメディアのライターなどと良好な関係を築いておくことで、プレスリリースを取り上げてもらいやすくなったり、企画記事の相談を受けたり、取材依頼に繋がったりします。
具体的な活動としては、新任の挨拶回り、個別の情報提供(メディアピッチ)、業界動向に関する意見交換、記者会見や製品発表会の開催、メディア向けの懇親会(メディアキャラバン)などがあります。大切なのは、一方的に情報を送りつけるのではなく、各メディアの特性や記者の関心事を理解し、「お互いにとって有益な情報交換」を心がける姿勢です。
取材対応
メディアからの取材依頼に対応するのも広報の重要な役割です。取材依頼を受けたら、まず取材の目的、内容、掲載媒体、取材対象者(誰に話を聞きたいか)などを詳細にヒアリングします。その上で、社内の関連部署や経営層と連携し、取材を受けるかどうかを判断し、適切な担当者(スポークスパーソン)をアサインします。
取材当日は、担当者に同行し、想定問答集の準備や事実確認のサポート、発言内容のフォローなどを行います。企業の代表としてメディアと対峙するため、誤った情報や誤解を招く表現がないよう、細心の注意が必要です。掲載・放送前には、内容に事実誤認がないかを確認する「ゲラチェック」を行うこともあります。
イベントの企画・運営
新製品発表会、記者会見、株主総会、展示会への出展、セミナー、地域貢献活動など、さまざまなイベントを企画・運営します。目的設定から始まり、企画立案、会場選定、集客、当日の運営、そしてイベント後の効果測定まで、一連のプロセスを管理します。
多くの部署や外部の協力会社と連携しながらプロジェクトを進めるため、高い調整能力とプロジェクトマネジメントスキルが求められます。イベントは、メディアだけでなく、一般消費者や取引先と直接コミュニケーションできる貴重な機会であり、企業のブランド体験を提供する重要な場となります。
公式サイトやSNSの運営
近年、企業が自らメディアとなって情報を発信する「オウンドメディア」の重要性が高まっています。広報部門が企業の公式サイト内のニュースリリースセクションやブログ、X(旧Twitter)、Facebook、Instagram、YouTubeなどの公式SNSアカウントの運営を担うケースが増えています。
これらのプラットフォームを通じて、プレスリリースでは伝えきれない企業の文化や社員の想い、製品開発の裏側などを発信し、ファンを増やしていくことが目的です。単なる情報発信に留まらず、ユーザーからのコメントや質問に真摯に返信するなど、双方向のコミュニケーションを活性化させることが、エンゲージメント(つながりの強さ)を高める鍵となります。
危機管理対応
クライシスコミュニケーションとも呼ばれ、広報の腕の見せ所ともいえる業務です。製品の不具合や事故、不祥事、SNSでの炎上など、企業にとってネガティブな事態が発生した際に、その損害を最小限に食い止めるための対応を行います。
迅速な事実確認、状況分析、対応方針の決定、関係各所への情報伝達、謝罪会見の実施、ステークホルダーへの説明など、その対応は多岐にわたります。危機管理においては、隠蔽や嘘は最も避けるべき行為です。たとえ自社に非がある場合でも、誠実かつ迅速に情報を公開し、真摯な対応を貫く姿勢が、最終的に企業の信頼を守ることに繋がります。
社内広報
社内広報は、企業の「内」にいるステークホルダー、すなわち経営層と従業員を対象としたコミュニケーション活動です。その目的は、経営理念やビジョンの浸透、従業員のエンゲージメント(仕事への熱意や貢献意欲)の向上、部門間の連携強化、組織の一体感の醸成などにあります。従業員が自社に誇りを持ち、同じ方向を向いて働ける環境を作るための重要な役割を担います。
社内報の作成
社内広fasstの代表的なツールです。経営層からのメッセージ、各部署の取り組み紹介、新入社員紹介、活躍する社員へのインタビュー、福利厚生制度の案内など、さまざまなコンテンツを通じて社内の情報を共有します。
かつては紙媒体が主流でしたが、現在ではイントラネット(社内ネットワーク)上のWeb社内報や、動画、メールマガジンなど、形式は多様化しています。従業員が「読みたい」と思うような魅力的なコンテンツを企画する力が求められます。
社内イベントの企画
全社総会(キックオフミーティング)、社員表彰式、運動会、ファミリーデー、忘年会といった社内イベントの企画・運営も社内広報の仕事です。これらのイベントは、従業員同士のコミュニケーションを促進し、組織の風通しを良くする目的があります。また、経営層が従業員に直接ビジョンを語り、会社の方向性を示す重要な機会でもあります。
経営層のメッセージ発信
社長や役員が発信するメッセージは、従業員のモチベーションや会社への信頼感に大きな影響を与えます。社内広報は、社長の年頭挨拶や決算期のメッセージなどを、社内報やイントラネット、動画などを通じて従業員に分かりやすく伝えるサポートをします。時には、メッセージの草案作成やインタビューを行うこともあり、経営層の考えを深く理解し、的確な言葉に変換する能力が求められます。
IR(投資家向け広報)
IRは「Investor Relations(インベスター・リレーションズ)」の略で、株主や投資家を対象とした広報活動を指します。その目的は、企業の経営状況や財務状況、将来性などを正確かつ公平に伝え、投資判断に必要な情報を提供することで、企業価値の適正な評価と、長期的で良好な関係の構築を目指すことです。
IR業務は、金融商品取引法などの法律や規制に関する深い知識、財務・会計の専門知識が求められるため、広報の中でも特に専門性の高い領域とされています。主な業務には、決算発表に合わせて開催される「決算説明会」の企画・運営、年次報告書(アニュアルレポート)や株主通信などのIR資料の作成、株主総会の運営サポート、国内外の機関投資家との個別ミーティング(IRミーティング)の実施などがあります。
未経験から広報への転職は可能?
広報という職種の専門性や重要性を知るほど、「やはり未経験からの転職は難しいのではないか」と感じるかもしれません。
結論から述べると、「未経験からの広報への転職は可能だが、決して簡単な道のりではない」というのが実情です。多くの企業、特に大手企業では、広報部門は少数精鋭で構成されており、即戦力となる経験者を求める傾向が強いからです。企業の「顔」として外部と接し、時には危機管理という重大な責任を負うため、採用には慎重になるのが自然です。
しかし、近年、この状況は少しずつ変化しています。未経験者であっても、ポテンシャルや他の職種で培ったスキルが評価され、広報として採用されるケースは増えています。その背景には、いくつかの理由があります。
第一に、広報活動の多様化が挙げられます。かつてはメディアリレーションズが中心でしたが、現在ではSNS運用、オウンドメディアのコンテンツ制作、Webマーケティング、社内エンゲージメント向上など、広報が担う領域は格段に広がりました。これにより、マーケティング、営業、ライター、人事など、他職種のスキルや経験を活かせる場面が増えたのです。例えば、SEOの知識があるマーケターや、顧客との関係構築が得意な営業担当者は、広報の特定領域で即戦力となり得ます。
第二に、企業の採用方針の変化です。特に成長段階にある中小・ベンチャー企業では、専任の広報担当者がおらず、社長や他の部署のメンバーが兼務しているケースが少なくありません。こうした企業では、ゼロから広報部門を立ち上げる意欲のある人材や、多様な業務を柔軟にこなせるポテンシャルの高い人材を求める傾向があります。完成された経験者よりも、自社のカルチャーにフィットし、共に成長していける人材を重視するのです。
第三に、「未経験」の定義が広くなったことも関係しています。完全に異業種・異職種からの転職だけでなく、「広報の経験はないが、現職でプレスリリース作成を手伝ったことがある」「自社のSNS運用を担当していた」といった、部分的に広報に近い業務を経験している「準未経験者」も増えています。こうした経験は、転職市場において大きなアピールポイントとなります。
したがって、「未経験だから」と諦める必要はありません。重要なのは、なぜ企業が広報経験者を求めるのか(=即戦力性、専門性、責任感)を理解した上で、自分がいかにしてその期待に応えられるかを論理的に説明することです。自分のキャリアを棚卸しし、広報の仕事内容と結びつけ、「自分は未経験かもしれないが、このスキルと経験を活かして、このように貴社に貢献できる」という具体的なビジョンを提示することが、転職成功の鍵を握ります。
この後の章では、未経験から広報になるための具体的なステップや、アピールすべきスキル・経験について詳しく解説していきます。まずは「可能性はある」ということを理解し、前向きに情報収集を始めることが第一歩です。
未経験から広報へ転職するための4つの方法
未経験から広報への転職を成功させるためには、戦略的なアプローチが不可欠です。やみくもに求人に応募するのではなく、自分に合った方法で着実にステップアップしていくことが重要になります。ここでは、代表的な4つの方法を紹介します。
① 現職で広報に近い業務を経験する
最も現実的かつリスクの低い方法が、現在の職場で広報に関連する経験を積むことです。社内に広報部門がある場合は、まずは社内公募制度などを利用して異動を目指すのが王道です。異動希望を出す際には、ただ「広報に行きたい」と伝えるだけでなく、なぜ広報をやりたいのか、そのためにどのような自己学習をしているのか(例えば、PRプランナーの勉強やライティング講座の受講など)、自分のどんなスキルが活かせるのかを具体的にアピールすることが大切です。
もし社内異動が難しい場合や、社内に広報部門がない場合でも、諦める必要はありません。自ら「プチ広報」としての役割を担うのです。例えば、以下のようなアクションが考えられます。
- 所属部署の広報担当を名乗り出る: 部署の新しい取り組みや成果を社内報やイントラネットに投稿する。
- 自社サイトやSNSの運用を手伝う: コンテンツの企画や記事作成、投稿作業などをマーケティング部門や担当者に申し出て手伝う。
- イベント運営のサポート: 社内イベントや展示会などの運営スタッフに立候補し、企画や当日の運営に関わる。
- プレスリリースの草案作成: 自部門で発表したいニュースがある際に、「たたき台として書いてみました」と提案してみる。
こうした小さな経験の積み重ねが、職務経歴書に書ける立派な実績となります。「広報未経験」から「広報関連業務の経験あり」へと自身の市場価値を高めることができる、非常に有効な手段です。
② PR会社や広告代理店で経験を積む
事業会社の広報(インハウス広報)に直接転職するのが難しい場合、PR会社や広告代理店に転職し、専門スキルを磨くというキャリアパスも非常に有効です。
PR会社は、さまざまな企業の広報・PR活動を代行するプロフェッショナル集団です。クライアントの課題をヒアリングし、広報戦略の立案からプレスリリースの作成・配信、メディアリレーションズ、イベントの企画・運営までを請け負います。
この方法の最大のメリットは、短期間で広報に関する多様な知識とスキルを体系的に身につけられる点です。複数の業界のクライアントを担当することで、幅広い知見が得られ、メディア関係者との人脈も一気に広がります。業務はハードな傾向がありますが、ここで数年間経験を積むことで、その後、事業会社の広報担当者として転職する際に非常に有利になります。多くの企業が、PR会社出身者を即戦力として高く評価しています。
③ 中小・ベンチャー企業を転職先として検討する
未経験者にとって、中小・ベンチャー企業は大きなチャンスがあるフィールドです。大手企業と比べて、採用において経験よりもポテンシャルや人柄、企業文化へのフィット感を重視する傾向があります。
多くの中小・ベンチャー企業では、専任の広報担当者がいない、あるいは「一人広報」として社長や他業務の担当者が兼務しているケースが少なくありません。そのため、「ゼロから広報体制を立ち上げたい」「広報活動を強化したい」というニーズがあり、未経験でも熱意と学習意欲があれば採用される可能性が十分にあります。
中小・ベンチャー企業で働くメリットは、裁量が大きく、幅広い業務を経験できることです。社外広報から社内広報、SNS運用、イベント企画まで、あらゆる広報業務を一人で担当することも珍しくありません。これは大変な反面、短期間で圧倒的な成長を遂げられるチャンスでもあります。
ただし、教育体制や研修制度が整っていない場合が多いため、自ら学び、考え、行動する自走力が不可欠です。誰かの指示を待つのではなく、自分で課題を見つけて解決していく姿勢が求められます。
④ 派遣・契約社員から正社員を目指す
正社員としての採用ハードルが高いと感じる場合、派遣社員や契約社員として広報のキャリアをスタートさせるという選択肢もあります。
この方法のメリットは、未経験でも広報の現場に入り込み、実務経験を積むチャンスを得やすいことです。特に大手企業では、アシスタント業務を中心に派遣社員を募集することがあります。業務内容は、プレスリリースの配信サポート、掲載記事のクリッピング、メディアリストの管理、電話・メール対応など、サポート的なものが中心になるかもしれませんが、広報の仕事の流れや雰囲気を肌で感じることができます。
現場で真摯に業務に取り組み、積極的にスキルを吸収し、周囲との信頼関係を築くことで、契約更新や、さらには正社員登用の道が開ける可能性もあります。たとえその企業で正社員になれなくても、ここで得た実務経験は、次の転職活動で「広報経験者」としてアピールするための強力な武器になります。雇用の安定性や任される業務範囲に制約がある可能性は考慮しつつも、キャリアの第一歩としては有効な選択肢です。
広報に求められるスキル
広報は、多様なステークホルダーと関わり、複雑な情報を扱うため、幅広いスキルが求められます。未経験から転職を目指す際は、これらのスキルの中から、自分が既に持っているもの、そしてこれから重点的に伸ばすべきものを明確に意識することが重要です。
スキル分類 | 具体的なスキル | 概要 |
---|---|---|
対人・交渉系 | コミュニケーション能力 | 社内外の多様な人々と円滑な人間関係を築き、情報を正確に伝達・受信する力。 |
プレゼンテーション能力 | 記者会見や社内説明会などで、聴衆を引きつけ、分かりやすく情報を伝える力。 | |
情報処理・戦略系 | 情報収集力と分析力 | 世の中の動向や自社関連の情報を常に収集し、広報戦略に活かすための分析を行う力。 |
企画力と実行力 | 広報戦略に基づき、具体的な施策を立案し、関係者を巻き込みながら最後までやり遂げる力。 | |
実務・専門系 | 文章作成能力 | プレスリリースや社内報など、目的とターゲットに応じた論理的で分かりやすい文章を書く力。 |
危機管理能力 | 予期せぬトラブルに対し、冷静かつ迅速に状況を判断し、適切な対応をとる力。 | |
Webマーケティングの知識 | SEO、SNS、アクセス解析など、デジタル領域での広報活動に必要な知識とスキル。 | |
語学力 | グローバル展開する企業において、海外メディア対応や英文資料作成などを行う力。 |
コミュニケーション能力
広報にとって最も根幹となるスキルです。社外のメディア関係者、顧客、取引先、地域社会の人々、そして社内の経営層や各部署の社員など、関わる相手は実にさまざまです。相手の立場や関心事を理解して話を聞く「傾聴力」、自社の意図を正確に伝える「伝達力」、意見が対立した際に落としどころを見つける「調整力」、そしてメディアに記事掲載を働きかける「交渉力」など、コミュニケーション能力は多岐にわたります。特に、多様なステークホルダーのハブ(結節点)となり、円滑な関係を築く力は不可欠です。
情報収集力と分析力
広報は、常に社会の動きにアンテナを張っている必要があります。自社が属する業界の動向、競合他社の動き、政治経済のニュース、テクノロジーの進化、世の中のトレンドや流行など、幅広い情報を日々インプットすることが求められます。新聞やニュースサイト、SNSなどを活用して効率的に情報を集める力が必要です。さらに重要なのは、集めた情報をただ眺めるだけでなく、それらを分析し、「自社にとってどのような意味を持つのか」「次の広報活動にどう活かせるか」を考える力です。
プレゼンテーション能力
記者会見や製品発表会、社内向けの説明会など、人前で話す機会が多いのも広報の特徴です。伝えたい情報を論理的に構成し、分かりやすい言葉と資料(スライドなど)を使って、聴衆に「なるほど」と納得させ、心を動かす力が求められます。単に話がうまいだけでなく、聞き手の反応を見ながら話し方や内容を調整する柔軟性も重要です。
文章作成能力
プレスリリース、ニュースレター、社内報、Webサイトの記事、SNSの投稿文、経営層のスピーチ原稿など、広報は日々さまざまな文章を作成します。それぞれの媒体の特性や読者層を理解し、目的(認知拡大、理解促進、共感獲得など)に応じて、トーン&マナーや言葉遣いを使い分ける高度なライティングスキルが不可欠です。論理的で分かりやすく、かつ人の心に響く文章を書く能力は、広報の成果を直接左右します。
企画力と実行力
広報活動は、場当たり的に行うものではありません。企業の経営戦略や事業目標と連動した「広報戦略」を立て、それに基づいて具体的な施策を企画・実行していきます。「自社のこの魅力を、どのターゲットに、どのタイミングで、どのような方法で伝えれば最も効果的か」を考え、斬新で効果的な企画を立案する力。そして、その企画を絵に描いた餅で終わらせず、社内外の関係者を巻き込みながら、予算やスケジュールを管理し、最後までやり遂げる「実行力」がセットで求められます。
危機管理能力
企業の不祥事や事故、SNSでの炎上など、ネガティブな事態が発生した際に冷静に対応する能力です。パニックにならず、まずは迅速に事実関係を把握し、起こりうる最悪の事態を想定しながら、対応策を検討します。経営層や法務部などと連携し、社会に対して誠実かつ毅然とした態度でコミュニケーションをとる必要があります。高いストレス耐性と、プレッシャーの中でも的確な判断を下せる冷静さが不可欠です。
Webマーケティングの知識
現代の広報活動は、WebやSNSと切り離せません。自社サイトへの流入を増やすためのSEO(検索エンジン最適化)の知識、SNSの各プラットフォームの特性を理解した上での効果的な情報発信、Google Analyticsなどを用いたアクセス解析といったWebマーケティングのスキルは、もはや必須と言えます。プレスリリース配信後の効果測定や、Web上での評判(レピュテーション)管理においても、これらの知識は強力な武器となります。
語学力
グローバルに事業を展開している企業や、外資系企業では、英語をはじめとする語学力が必須となる場合があります。海外メディアからの問い合わせ対応、英文プレスリリースの作成、海外の投資家とのコミュニケーションなど、活用の場面は多岐にわたります。ビジネスレベルの読み書きや会話ができることは、キャリアの選択肢を大きく広げることに繋がります。
広報への転職でアピールできる経験
「広報未経験」であっても、これまでのキャリアで培ってきた経験やスキルは、必ず広報の仕事に活かすことができます。重要なのは、自分の経験を広報業務と結びつけ、採用担当者に「この人なら広報として活躍できそうだ」と具体的にイメージさせることです。ここでは、代表的な職種と、それぞれでアピールできる経験について解説します。
職種 | 広報で活かせるスキル・経験 | アピールのポイント |
---|---|---|
営業職 | コミュニケーション能力、交渉力、目標達成意欲、顧客理解 | 顧客との関係構築力をメディアリレーションズに、製品説明能力を情報発信に活かす。 |
マーケティング職 | 市場分析力、戦略立案能力、Webマーケティング知識 | データに基づいた広報戦略の立案や、マーケティング部門との連携を強みとしてアピール。 |
販売・接客職 | 高い対人スキル、顧客対応力、クレーム対応経験 | BtoC企業での広報活動や、危機管理時の冷静な対応力としてアピール。 |
事務職 | 調整能力、スケジュール管理、資料作成スキル、正確性 | 取材やイベントの円滑な運営、社内調整役としての貢献をアピール。 |
記者・ライター・編集者 | 文章作成能力、取材力、メディア側の視点の理解 | メディアが求める情報を提供する能力、質の高いコンテンツ作成能力をアピール。 |
営業職
一見、広報とは異なるように思える営業職ですが、実は非常に親和性の高いスキルを多く持っています。
- コミュニケーション能力・関係構築力: 新規顧客を開拓し、既存顧客と良好な関係を維持してきた経験は、メディア関係者とのリレーション構築にそのまま活かせます。初対面の人とも臆せず話せる度胸や、相手の懐に入る力は大きな強みです。
- 交渉力: 価格交渉や納期調整などで培った交渉力は、メディアに記事掲載を働きかけるメディアピッチの場面で役立ちます。
- 製品・サービスへの深い理解: 自社の製品やサービスを顧客に分かりやすく説明してきた経験は、プレスリリースやメディア向け資料を作成する際に非常に重要です。
- 目標達成意欲: 営業目標達成のために粘り強く活動してきた経験は、成果が見えにくい広報業務においても、目標を設定し達成に向けて努力できる人材であることの証明になります。
マーケティング職
広報とマーケティングは、企業のコミュニケーション活動の両輪であり、連携が不可欠です。そのため、マーケティング職の経験は即戦力として高く評価されます。
- 戦略的思考: 市場調査やデータ分析に基づき、マーケティング戦略を立案した経験は、経営目標に沿った広報戦略を策定する上で直接的に役立ちます。
- Webマーケティングの知識: SEO、コンテンツマーケティング、SNS広告、アクセス解析などのスキルは、デジタルPRが主流の現代において必須であり、大きなアドバンテージとなります。
- 効果測定の視点: キャンペーンの効果をROI(投資対効果)などで測定してきた経験は、数値化しにくいと言われる広報活動の効果を可視化しようと試みる上で重要な視点です。
販売・接客職
アパレルショップの店員やホテルのフロント、コールセンターのオペレーターといった販売・接客職の経験も、広報の仕事に活かせます。
- 高い対人スキル: 日々、不特定多数のお客様と接する中で培われた、相手に好印象を与え、要望を的確に汲み取る能力は、メディア対応やイベント運営で輝きます。
- 顧客視点: 一般消費者の気持ちやニーズを肌で理解していることは、特にBtoC企業の広報にとって強力な武器となります。生活者の心に響く企画の立案に繋がります。
- クレーム対応経験: お客様からの厳しい意見やクレームに冷静かつ誠実に対応してきた経験は、危機管理対応におけるストレス耐性や対応力の証明になります。
事務職
営業事務や一般事務、秘書などの事務職経験も、広報業務の土台となるスキルを証明する上で有効です。
- 調整能力・スケジュール管理能力: 複数の部署や担当者の間に立ち、会議の日程調整や業務の進捗管理を行ってきた経験は、取材対応やイベント運営など、多くの関係者が関わる業務を円滑に進める上で不可欠です。
- 資料作成スキル: Word、Excel、PowerPointなどを用いて、分かりやすく見栄えの良い資料を作成するスキルは、プレスリリースや社内報、プレゼン資料の作成に直結します。
- 正確性と丁寧さ: 契約書や請求書の処理などで培われた、細部までミスなく確認する注意力や、丁寧な仕事ぶりは、企業の公式情報を扱う広報にとって非常に重要な資質です。
記者・ライター・編集者
広報への転職において、最も親和性が高い職種と言えるでしょう。メディアの内部にいた経験は、他の職種にはない独自の強みとなります。
- 圧倒的な文章作成能力: 日々、文章を書くことを仕事にしてきた経験は、質の高いプレスリリースやオウンドメディア記事を作成する上で最大の武器です。
- メディア側の視点: 「どのような情報がニュースになるのか」「記者はどのような切り口を求めているのか」を熟知しているため、メディアに響く効果的な情報発信が可能です。メディアリレーションズにおいても、相手の立場を理解したコミュニケーションができます。
- 情報収集力・取材力: 情報を集め、人に話を聞き、要点をまとめて分かりやすく伝えるという一連のスキルは、広報活動のあらゆる場面で活かせます。
これらの例を参考に、自身のキャリアを振り返り、広報の仕事とどう繋がるのかを具体的に言語化する準備を進めましょう。
転職活動を成功させる3つのポイント
未経験から広報への転職活動を成功させるためには、書類選考や面接において、熱意だけでなく「広報としてのポテンシャル」を的確に伝える必要があります。ここでは、特に重要となる3つのポイントを解説します。
① 広報の役割を正しく理解する
面接官が最も懸念するのは、「応募者が広報の仕事に対して、漠然とした華やかなイメージしか持っていないのではないか」という点です。SNSで情報を発信したり、イベントに登壇したりといった目立つ側面にばかり目が行き、その裏にある地道な作業や泥臭い業務を理解していないと判断されると、採用には至りません。
転職活動を始める前に、必ず志望企業の広報活動を徹底的にリサーチしましょう。
- 過去1年分のプレスリリースを全て読み込む
- 公式ウェブサイトやオウンドメディアのコンテンツを分析する
- 公式SNSアカウントの投稿内容や、ユーザーとのやり取りをチェックする
- メディア掲載記事(ニュース検索などで調査)から、どのような文脈で取り上げられているかを確認する
これらのリサーチを通じて、「貴社の広報活動は〇〇という戦略に基づいて、△△というターゲットに情報を届けようとしていると分析しました。その上で、私は□□という点で貢献できると考えています」といった、具体的な考察に基づいた志望動機を語れるように準備しておくことが不可欠です。企業の経営戦略における広報の役割を理解し、事業貢献への強い意欲を示すことが、他の応募者との差別化に繋がります。
② これまでの経験をどう活かすか伝える
「未経験」というハンディキャップを乗り越えるためには、これまでのキャリアで得たスキルや経験が、いかに広報の仕事で役立つかを具体的に説明する必要があります。
単に「営業でコミュニケーション能力を培いました」と述べるだけでは不十分です。「営業として、これまで関係構築が難しかったA業界の大手企業に対し、3ヶ月間粘り強くアプローチを続け、担当者の課題をヒアリングし、自社製品がどう貢献できるかを提案し続けた結果、大型契約に繋げた経験があります。この『相手のニーズを的確に捉え、粘り強く関係を築く力』は、これまで接点のなかった有力メディアの記者様とのリレーションをゼロから構築する際に必ず活かせると考えています」のように、具体的なエピソード(STARメソッドなどを活用)を交えて語ることが重要です。
自分の職務経歴を棚卸しし、それぞれの経験が「広報のどの業務(プレスリリース作成、メディアリレーションズ、危機管理など)」に「どのように貢献できるのか」を一つひとつ言語化しておく作業が、面接での説得力を大きく左右します。
③ なぜ広報になりたいのかを明確にする
「なぜ広報なのか?」という問いは、未経験者の面接で必ず聞かれる核心的な質問です。この問いに対して、深く、そして熱意を持って答えられなければ、採用担当者の心を動かすことはできません。
この志望動機は、以下の3つの要素で構成すると説得力が増します。
- Why(なぜ広報なのか): 営業やマーケティングなど、他の職種ではダメな理由。自分が「伝える」という行為を通じて、何を成し遂げたいのかという根源的な動機。
- Why This Company(なぜこの会社なのか): 数ある企業の中で、なぜその会社の広報になりたいのか。その企業の理念、事業内容、製品・サービスへの強い共感や愛情。「この会社の魅力を、私が社会に広めたい」という強い想い。
- How I Can Contribute(どう貢献できるのか): 上記の2つを踏まえた上で、自分のスキルや経験を活かして、その会社の広報として具体的にどう貢献できるのかというビジョン。
「憧れ」や「かっこよさそう」といった表面的な理由ではなく、自身の価値観やキャリアプランと、その企業の広報という仕事が論理的に結びついていることを明確に伝えましょう。この一貫したストーリーこそが、未経験という弱点を補って余りある熱意とポテンシャルの証明となります。
広報の仕事に向いている人の特徴
スキルや経験とは別に、広報という仕事には特有の適性、つまりパーソナリティが求められます。ここでは、広報の仕事に向いている人の特徴を3つの観点から解説します。自分が当てはまるかどうか、自己分析の参考にしてみてください。
会社の顔として働くことにやりがいを感じる人
広報は、個人の名前で仕事をする場面よりも、「株式会社〇〇の広報担当」として、会社の看板を背負って活動することがほとんどです。メディアに掲載されるのは自分の名前ではなく会社名であり、手柄も会社の成果となります。このように、自らが前面に出るのではなく、黒子として会社や社員、製品・サービスを輝かせることに喜びを感じられる人は、広報に向いています。
そのためには、自社に対する深い愛情や共感が不可欠です。「この会社の理念が好きだ」「この製品は本当に素晴らしい」と心から信じ、その魅力を一人でも多くの人に伝えたいという純粋な情熱があるかどうかが、日々の活動のモチベーションに繋がります。会社の成功を自分の成功として捉えられる人が、広報として長く活躍できるでしょう。
好奇心旺盛でトレンドに敏感な人
広報の仕事は、社内だけでなく、常に社会全体に目を向けている必要があります。政治、経済、社会問題、テクノロジー、文化、流行など、世の中のあらゆる事象にアンテナを張り、知的好奇心を持って情報をインプットし続けられる人は、広報の適性が高いと言えます。
なぜなら、効果的な広報活動は、社会の関心事やトレンドと自社の情報を結びつけることで生まれるからです。「最近話題の〇〇という社会課題に対して、自社のこの技術が貢献できるのではないか」「流行のSNSプラットフォームを使えば、新しい層にアプローチできるかもしれない」といった発想は、日々の情報収集から生まれます。新しいツールや手法を面白がって試せるフットワークの軽さも重要です。
責任感が強く誠実な対応ができる人
広報が発信する情報は、企業の公式見解として社会に受け止められます。プレスリリースの一文、SNSの一投稿が、企業の株価やブランドイメージを大きく左右することもあります。そのため、自分が発信する情報の一つひとつに重い責任が伴うことを自覚し、事実確認を怠らない真面目さが求められます。
特に、危機管理対応の場面では、その人の誠実さが問われます。自社にとって不都合な事実があったとしても、それを隠したり、嘘をついたりすることは許されません。たとえ厳しい批判に晒されても、社会に対してオープンかつ誠実なコミュニケーションを貫ける強い責任感と精神的なタフさは、広報担当者にとって不可欠な資質です。
広報の仕事のやりがいと厳しさ
広報への転職を考える上で、仕事の魅力的な側面(やりがい)と、現実的な困難(厳しさ)の両方を理解しておくことは、入社後のミスマッチを防ぐために非常に重要です。
広報のやりがい
- 企業の成長に直接貢献できる: 自身が仕掛けた広報活動がきっかけでメディアに大きく取り上げられ、製品の売上が急増したり、優秀な人材の採用に繋がったりと、会社の成長をダイレクトに実感できる瞬間は、何物にも代えがたい喜びです。
- 経営に近い視点が身につく: 広報は、常に会社全体の動きを把握し、経営層と密に連携しながら仕事を進めます。そのため、自然と経営的な視点が養われ、ビジネスパーソンとして大きく成長できます。
- 多様な人との出会い: 経営トップから現場の社員、メディア関係者、業界の有識者、イベントで出会う顧客まで、社内外の非常に多くの人々と関わる機会があります。こうした多様な出会いは、自身の視野を広げ、豊かな人脈を築くことに繋がります。
- 社会への影響力を実感できる: 自社の取り組みやメッセージを社会に発信することで、人々の考え方や行動にポジティブな影響を与えたり、社会課題の解決に貢献したりできる可能性があります。自分の仕事が社会と繋がっているという実感は、大きなやりがいとなります。
広報の厳しさ
- 成果が数値化しにくい: 営業の売上のように、広報活動の効果を明確な数字で示すことは困難です。メディア掲載数や広告換算費などの指標はありますが、それが直接的にどれだけ事業に貢献したかを証明するのは難しく、社内での評価を得にくいという悩みを抱えることがあります。
- 常にプレッシャーに晒される: 広報の発言や発信物は、常に企業の「公式」なものとして見られます。誤った情報を流してしまえば、企業の信頼を大きく損なうことになりかねません。この「会社の顔」としてのプレッシャーは常に付きまといます。
- 突発的な業務が多い: 深夜や休日に、メディアからの急な問い合わせや、SNSでの炎上といった予測不能なトラブルが発生することも少なくありません。プライベートとの両立が難しくなる場面もあります。
- 地道な作業の多さ: 華やかなイメージとは裏腹に、メディアリストの作成・更新、掲載記事のクリッピング(収集・整理)、効果測定レポートの作成、イベントの備品準備など、非常に地道で時間のかかる作業が多くを占めます。
- 板挟みになりやすい: 経営層の「こう発信してほしい」という要望と、現場の「実態は少し違う」という声、そしてメディアの「もっと面白い情報がほしい」という要求の間に立ち、各所の調整役として苦労することも多いポジションです。
広報の年収とキャリアパス
広報という専門職を選ぶ上で、将来的な収入やキャリアの展望は重要な関心事です。ここでは、広報の年収水準と、その後のキャリアパスについて解説します。
広報の平均年収
広報の年収は、個人のスキルや経験、所属する企業の規模や業界、そして担当する業務領域(社外広報、社内広報、IRなど)によって大きく異なります。
転職サービス「doda」が発表した「平均年収ランキング(職種別)」(2023年版)によると、「広報/PR」の平均年収は538万円となっています。これは、全体の平均年収414万円と比較して高い水準にあります。年代別に見ると、20代で403万円、30代で552万円、40代で650万円と、経験を積むにつれて着実に上昇していく傾向が見られます。
(参照:doda 平均年収ランキング 最新版【職種の平均年収/生涯賃金】)
一般的に、以下の要素が年収を押し上げる傾向にあります。
- 企業規模: 大手企業の方が中小・ベンチャー企業よりも年収水準は高い傾向があります。
- 業界: 外資系企業や、金融、IT、製薬といった専門性の高い業界は、年収が高めに設定されることが多いです。
- 専門性: IR(投資家向け広報)や危機管理広報、グローバル広報といった高度な専門知識が求められる領域は、特に高い報酬が期待できます。
未経験からの転職の場合、初年度は平均よりも低い年収からスタートする可能性もありますが、スキルと実績を積むことで、市場価値を高め、年収アップを実現していくことが可能な職種です。
広報のキャリアパス
広報として経験を積んだ後には、多様なキャリアの選択肢が広がっています。
広報のスペシャリストを目指す
一つの企業や組織の中でキャリアを積み上げ、広報のプロフェッショナルとしての道を極めるキャリアパスです。
- 管理職への昇進: 広報メンバーからリーダー、マネージャー、そして最終的には広報部門のトップである広報部長やCCO(Chief Communication Officer)を目指します。経営陣の一員として、企業全体のコミュニケーション戦略を統括する重要な役割を担います。
- 専門分野の深化: 特定の領域の専門性を高める道もあります。例えば、IRのスペシャリストとして金融市場のプロと渡り合ったり、危機管理のプロとして企業のレピュテーションを守ったり、グローバル広報のプロとして世界を舞台に活躍したりと、自身の強みを活かしてキャリアを築いていきます。
他の職種へキャリアチェンジする
広報で培ったスキルは、他の職種でも高く評価されます。
- マーケティング: 広報と親和性が高く、最もキャリアチェンジしやすい職種の一つです。広報で得た社会やメディアの視点を活かし、より包括的なブランド戦略やマーケティング戦略を立案します。
- 人事(採用・組織開発): 社内外への情報発信能力や、社内エンゲージメント向上の経験を活かし、採用広報やインナーブランディング、組織文化の醸成といった領域で活躍できます。
- 経営企画・事業開発: 会社全体を俯瞰する視点や、経営層とのコミュニケーション経験を活かし、企業の中長期的な戦略立案や新規事業の立ち上げに関わる道もあります。
独立・起業する
広報として豊富な経験と実績、そして強固な人脈を築いた後には、独立するという選択肢もあります。
- PRコンサルタント: フリーランスのPRコンサルタントとして、複数の企業の広報活動を支援します。
- PR会社の設立: 仲間と共にPR会社を立ち上げ、より大きなスケールで企業のコミュニケーション課題の解決を目指します。
このように、広報は一度経験を積めば、その後のキャリアの選択肢が非常に豊かになる、将来性の高い職種であると言えます。
広報への転職に役立つ資格
広報への転職において、資格が必須とされることはほとんどありません。採用はあくまで実務経験やポテンシャルが重視されます。しかし、未経験者が学習意欲や専門知識を客観的にアピールする上で、資格取得は有効な手段の一つとなり得ます。
PRプランナー
広報・PR関連で最も代表的な資格で、公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会が認定しています。広報・PRに関する体系的な知識とスキルを証明するもので、1次・2次・3次の段階的な試験が用意されています。
- PRプランナー補(1次試験合格者): 広報の基本的な知識を問われます。
- 準PRプランナー(2次試験合格者): 広報の実務知識が問われます。
- PRプランナー(3次試験合格者): 高度な戦略立案能力やマネジメント能力が問われます。
未経験者は、まず1次試験の学習を通じて広報の全体像を掴むだけでも、非常に有益です。資格を持っていることで、広報という仕事への本気度を示すことができます。
(参照:公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会公式サイト)
語学関連の資格(TOEICなど)
外資系企業やグローバルに事業を展開する日本企業を目指すのであれば、語学力を証明する資格は強力な武器になります。特にTOEIC L&Rは多くの企業で指標とされており、一般的には750点以上、海外部門や英文でのやり取りが多いポジションでは860点以上が一つの目安とされます。単にスコアが高いだけでなく、ビジネスメールの作成や電話会議でのコミュニケーションなど、実務で使えるレベルであることが重要です。
ウェブ解析士
一般社団法人ウェブ解析士協会(WACA)が認定する資格で、Webサイトのアクセス解析データを基に、課題を発見し、改善策を提案するスキルを証明します。デジタルPRの重要性が増す現代において、プレスリリースの効果をWebサイトへの流入数で測定したり、SNSキャンペーンの成果を分析したりと、データに基づいた広報活動ができる人材として高く評価されます。この資格は、特にWebマーケティングの知識をアピールしたい場合に有効です。
(参照:一般社団法人ウェブ解析士協会(WACA)公式サイト)
IRプランナー
特定非営利活動法人 日本IR協議会が認定する、IR(インベスター・リレーションズ)に特化した資格です。IRの基礎知識を問う「CIRP(サープ)」と、より高度な応用知識を問う「CIR(シーアイアール)」があります。IR担当者は財務・会計の専門知識が不可欠なため、IR職を明確に目指すのであれば、取得を検討する価値は非常に高いと言えます。
(参照:特定非営利活動法人 日本IR協議会公式サイト)
これらの資格取得は、あくまで転職活動を有利に進めるための一つのツールです。最も大切なのは、資格を通じて得た知識を、実際の広報業務でどのように活かしていきたいかを具体的に語れること。ぜひ、自身のキャリアプランと照らし合わせながら、挑戦を検討してみてください。