転職の内定辞退の伝え方|電話・メール別の例文とマナーを解説

転職の内定辞退の伝え方、電話・メール別の例文とマナーを解説

転職活動を経て、ようやく手にした内定。しかし、複数の企業から内定を得たり、熟慮の末に別の道を選んだりと、内定を辞退する決断を迫られる場面は少なくありません。内定辞退は、応募者にとって法的に認められた権利ですが、選考に時間を割いてくれた企業への配慮を欠いてはなりません。伝え方一つで、あなたの社会人としての評価が大きく変わる可能性もあるのです。

この記事では、転職における内定辞退の適切な伝え方について、網羅的に解説します。いつまでに連絡すべきかというタイミングの問題から、内定承諾書提出後の辞退の可否、電話とメールそれぞれの連絡方法と具体的な例文、守るべきマナー、そして辞退理由の伝え方まで、内定辞退にまつわるあらゆる疑問や不安を解消します。

円満な内定辞退は、単にトラブルを避けるだけでなく、将来のキャリアにおける貴重な「縁」を守るための重要なステップです。 この記事を参考に、誠実かつ適切な対応を心がけ、気持ちよく次のステージへ進むための準備を整えましょう。

転職の内定辞退はいつまでに連絡するべきか

内定辞退の意思を固めたとき、多くの人がまず悩むのが「いつまでに連絡すべきか」というタイミングの問題です。連絡が早すぎても失礼にあたるのではないか、あるいは遅すぎると多大な迷惑をかけてしまうのではないか、といった不安を感じるかもしれません。しかし、結論は非常にシンプルです。ここでは、内定辞退の連絡における最適なタイミングとその理由について詳しく解説します。

辞退の意思が固まったらすぐに連絡するのが基本

転職の内定辞退において最も重要な原則は、「辞退の意思が固まったら、1日でも1時間でも早く連絡する」ことです。 これは、社会人としての基本的なマナーであり、お世話になった企業に対する最大限の配慮と言えます。

企業は、一人の採用枠に対して多くの時間とコストをかけています。書類選考から複数回の面接、適性検査など、多くの社員が関わり、貴重な業務時間を割いてあなたという人材を評価し、「ぜひ一緒に働きたい」という期待を込めて内定を出しています。あなたが辞退するということは、その企業の採用計画に少なからず影響を与えることを意味します。

具体的に、なぜ迅速な連絡が重要なのでしょうか。理由は大きく分けて二つあります。

一つ目は、企業の採用活動をスムーズに進めるためです。企業は、採用予定人数を確保するために、複数の候補者をリストアップしていることがほとんどです。あなたが辞退の連絡を早くすればするほど、企業は速やかに次の候補者へアプローチできます。もし、あなたが連絡を遅らせた場合、次点の候補者がすでに他社への入社を決めてしまっているかもしれません。そうなると、企業は再度募集をかけ直すか、最悪の場合、そのポジションを空席のままにせざるを得なくなります。これは企業にとって大きな損失であり、あなたの連絡の遅れが原因で、他の誰かの機会を奪ってしまう可能性もゼロではないのです。

二つ目は、あなた自身の気持ちを切り替え、次のステップへ進むためです。言いにくい連絡を先延ばしにしている間は、精神的な負担が続きます。「早く連絡しなければ」という思いが常に頭の片隅にあり、入社を決めた企業への準備や、現在所属している会社の退職手続きなどに集中できなくなる可能性があります。罪悪感やストレスを抱え続けるよりも、誠意をもって速やかに連絡を済ませることで、気持ちに区切りをつけ、晴れやかな気持ちで新しいキャリアをスタートさせることができます。

「少し考えさせてくださいと伝えた手前、すぐに辞退するのは失礼かもしれない」「内定承諾の回答期限まで時間があるから、ギリギリまで待ってもいいだろう」といった考えは、相手への配慮を欠いた自分本位な判断になりかねません。辞退を決めた時点で、その内定を承諾する可能性はゼロなのですから、企業に無用な期待を持たせ続けることは、かえって不誠実な行為にあたります。 決断したのであれば、迷わず、即座に連絡を入れる。これが、円満な内定辞退における鉄則です。

内定通知から1週間以内が目安

「すぐに連絡」というのが基本原則ですが、具体的な期間の目安としては、一般的に「内定通知を受け取ってから1週間以内」が一つの基準とされています。多くの企業が、内定通知書と共に送付する内定承諾書の提出期限を1週間程度に設定していることが、この目安の根拠となっています。

企業側も、応募者が複数の企業の選考を並行して進めていることは理解しており、比較検討するための時間が必要であることは織り込み済みです。そのため、内定通知後、数日間考える時間を持つこと自体は問題ありません。しかし、その検討期間が不必要に長引くことは避けるべきです。

内定通知を受け取ったら、まず確認すべきは「内定承諾の回答期限」です。これは内定通知書や採用担当者からのメールに明記されているはずです。この期限は、企業があなたからの回答を待つことができるリミットを示しています。したがって、辞退する場合であっても、この回答期限内に連絡するのが最低限のマナーです。

もし、他社の選考結果待ちなどの理由で、期限内に結論が出せない場合は、正直にその旨を採用担当者に伝え、回答期限の延長を相談してみましょう。無断で期限を過ぎることは絶対に避けるべきです。

では、なぜ「1週間」が目安なのでしょうか。採用担当者の視点に立つと、内定を出してから1週間も経つと、「そろそろ回答が来る頃だ」と期待し始めます。そのタイミングで辞退の連絡があれば、「残念だが、仕方がない。すぐに次の候補者に連絡しよう」とスムーズに気持ちを切り替え、行動に移すことができます。しかし、これが2週間、3週間と延びてしまうと、「なぜもっと早く連絡をくれなかったのか」という不満につながりやすくなります。

特に、内定承諾期間が1週間と定められている場合、その期間をフルに使って最終日に辞退の連絡をするよりも、辞退を決めた3日目や4日目に連絡する方が、企業にとってははるかに親切です。

最終的に、連絡のタイミングで最も大切なのは、日数そのものよりも「辞退を決めたら即時」という姿勢です。 複数の内定先を比較検討し、ご自身のキャリアプランと照らし合わせ、家族とも相談した上で、辞退の意思が明確に固まった瞬間。その時が、まさに連絡すべき最適なタイミングなのです。

内定承諾書を提出した後の辞退は可能か

転職活動において、最も気まずく、そして悩ましい状況の一つが「内定承諾書を提出した後に辞退せざるを得なくなった」ケースでしょう。「一度承諾したのだから、もう覆すことはできないのではないか」「法的な拘束力があって、損害賠償を請求されるのではないか」といった不安に駆られる方も少なくありません。結論から言えば、内定承諾書を提出した後であっても、内定を辞退することは可能です。ここでは、その法的根拠と、企業から損害賠償を請求される可能性について詳しく解説します。

法律上は辞退できる

内定承諾書を提出した後でも、法律上、内定を辞退することは認められています。 これを理解するためには、まず「内定」および「内定承諾書」の法的な位置づけを知る必要があります。

判例上、「内定」は「始期付解約権留保付労働契約」が成立した状態と解釈されています。少し難しい言葉ですが、簡単に言うと「入社日になったら労働契約がスタートするけれど、それまでの間に内定取り消しに相当するような重大な理由が発生した場合は、企業側は契約を解約できますよ」という条件付きの労働契約が、内定の時点で成立している、ということです。応募者が内定承諾書を提出することは、この労働契約の成立に同意したことを意味します。

つまり、内定承諾書を提出した時点で、あなたと企業との間には法的な「労働契約」が結ばれているのです。
「契約が成立しているなら、一方的に辞退できないのでは?」と思うかもしれませんが、ここが重要なポイントです。労働者側には、この労働契約を解約する権利が法律で保障されています。

その根拠となるのが、民法第627条第1項です。

第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
(参照:e-Gov法令検索 民法)

この条文は、「期間の定めのない雇用契約」について、労働者はいつでも解約(退職)の申し入れができ、申し入れから2週間が経過すれば契約は終了する、と定めています。一般的な正社員の雇用契約はこれにあたるため、内定者もこの法律に基づいて、入社予定日の2週間前までに辞退の意思を伝えれば、法的には問題なく労働契約を解約できるということになります。

さらに、日本国憲法第22条では「職業選択の自由」が保障されています。これは、誰もが自分の意思で職業を選ぶことができるという fundamental な権利です。内定承諾書を提出したからといって、この権利が奪われることはありません。どの企業で働くかを最終的に決定する権利は、常に入社する本人にあります。

したがって、「内定承諾書にサインしてしまったから、もう後戻りはできない」と考える必要はありません。法的には、あなたは保護されています。しかし、これはあくまで法律上の話です。内定承諾後の辞退は、企業に対して内定承諾前よりも大きな迷惑をかける行為であることに変わりはありません。企業はあなたが入社すること前提で、備品の購入や研修の準備、場合によっては他の候補者全員に不採用通知を送っている可能性もあります。

そのため、内定承諾後に辞退する場合は、法律で認められているからと安心するのではなく、より一層の誠意と謝意をもって、可及的速やかに連絡することが極めて重要です。

損害賠償を請求される可能性は低い

内定承諾後の辞退を考えたときに、最も懸念されるのが「企業から損害賠償を請求されるのではないか」という点でしょう。辞退の連絡をした際に、採用担当者から「損害賠償を請求します」といった強い言葉を投げかけられるケースも、稀にですが存在します。しかし、実際に内定辞退を理由として損害賠償請求が認められる可能性は、極めて低いと言えます。

なぜなら、企業側が損害賠償を請求するためには、以下の二つの点を法的に立証する必要があり、これが非常に困難だからです。

  1. 内定辞退によって具体的な損害が発生したこと
  2. その損害と内定辞退との間に、直接的な因果関係があること

例えば、企業が主張しうる「損害」には、採用活動にかかった広告費や人材紹介会社への手数料、選考に関わった社員の人件費などが考えられます。しかし、これらの費用は、あなたが辞退しなくても、採用活動を行う上でいずれにせよ発生するコストです。あなたが辞退したから「新たに」発生した損害とは言えず、因果関係を立証することは困難です。

ただし、損害賠償が認められる可能性が全くのゼロというわけではありません。 過去の判例などから、ごく例外的に請求が認められる可能性があるのは、以下のような特殊なケースです。

  • 企業があなたの入社を前提として、特別に高額な費用を負担した場合
    • 例:海外での特別な研修費用をすでに支払ってしまった、あなたの入社に合わせて特注の機材を発注した、転居費用として数百万円をすでに支給した、など。
  • 応募者側の辞退の仕方が極めて悪質で、信義則に著しく反すると判断された場合
    • 例:入社を確約して他の候補者を全て断らせた上で、入社日当日に何の連絡もなく出社しない(いわゆるバックレ)、など。

このようなケースは非常に稀であり、一般的な内定辞退のプロセスを踏んでいれば、まず心配する必要はありません。誠意をもって、できるだけ早く辞退の連絡をすれば、法的なトラブルに発展することは考えにくいでしょう。

もし、企業側から損害賠償をちらつかせて強引に引き止められたり、脅しのような言動を受けたりした場合は、冷静に対応することが重要です。その場で反論したり、感情的になったりせず、「申し訳ございません」と謝罪の姿勢を保ちつつも、辞退の意思が固いことを毅然と伝えましょう。あまりに執拗な場合は、「弁護士や労働局に相談します」と伝えることで、相手の態度が軟化することもあります。

重要なのは、法的責任と道義的責任を分けて考えることです。内定承諾後の辞退に法的な問題はほとんどありませんが、企業に多大な迷惑をかけ、期待を裏切ってしまったという道義的な責任は存在します。その責任を果たす唯一の方法が、誠心誠意の謝罪と、迅速な連絡なのです。

内定辞退の連絡手段|電話とメールどちらが適切か

内定辞退の意思を固めた後、次に迷うのが「電話とメール、どちらで連絡すべきか」という点です。それぞれにメリット・デメリットがあり、どちらが正解とは一概には言えません。しかし、一般的なビジネスマナーや相手に与える印象を考慮すると、推奨される連絡手段には一定の傾向があります。ここでは、電話、メール、そして転職エージェント経由の3つのパターンに分けて、それぞれの適切な使い方を解説します。

連絡手段 メリット デメリット 主な利用シーン
電話 誠意が伝わりやすい、迅速に意思を伝えられる 担当者が不在の場合がある、言いにくい、記録が残らない 原則的なマナーとして最も推奨される方法。特に日系企業や伝統的な企業。
メール 記録が残る、相手の時間を奪わない、心理的負担が少ない 一方的な印象を与えかねない、誠意が伝わりにくい可能性がある 担当者が不在・多忙、電話が繋がらない場合。メールでのやり取りが主体の企業。電話後のフォロー。
転職エージェント 企業との間に立ってくれる、手続きを代行してくれる 担当者との関係性によっては言いにくい 転職エージェント経由で応募・内定した場合。必ずエージェント経由で連絡する。

誠意を伝えるなら電話が基本マナー

内定辞退の連絡は、原則として電話で行うのが最も丁寧で、誠意が伝わる方法です。 特に、日本のビジネス文化においては、謝罪や重要事項の伝達は、直接声を通じて行うのが礼儀であると考える人が多い傾向にあります。

電話が望ましい理由はいくつかあります。
第一に、声のトーンや言葉遣いを通じて、お詫びの気持ちや誠実な姿勢を直接伝えられる点です。メールの文面だけでは、どうしても事務的で冷たい印象を与えてしまいがちです。しかし、電話であれば、「大変申し訳ございません」という言葉に、心からの謝罪のニュアンスを乗せて伝えることができます。この「声」の持つ情報量は、テキストの比ではありません。

第二に、一方的な通知ではなく、対話によって辞退のプロセスを進められる点です。メールは送ってしまえば完了ですが、電話であれば、相手の反応を見ながら、辞退理由を補足したり、質問に答えたりすることができます。これにより、企業側も一方的に突き放されたという感覚を抱きにくくなります。

第三に、確実に担当者に辞退の意思を伝えられることです。メールの場合、担当者が見落としたり、迷惑メールフォルダに入ってしまったりする可能性がゼロではありません。その点、電話であれば、直接担当者と話すことで、確実に伝達できたことをその場で確認できます。

もちろん、電話での連絡には心理的なハードルが伴います。「怒られたらどうしよう」「気まずい雰囲気になったらどうしよう」と不安に感じるのは当然です。しかし、だからこそ、そのハードルを乗り越えて電話をかけてきたという行為そのものが、あなたの誠実さの証明になります。

電話をかける際は、事前に話す内容をメモにまとめておくと良いでしょう。「①内定へのお礼」「②辞退の意思表示」「③お詫びの言葉」という3つのポイントを簡潔に伝えられるように準備しておけば、緊張していてもスムーズに話を進めることができます。勇気を出して電話一本を入れることが、将来どこかで繋がるかもしれない企業との関係を良好に保つための、最善の策なのです。

メールで連絡しても良いケース

電話が基本マナーである一方で、状況によってはメールでの連絡が適切、あるいは許容されるケースも存在します。

代表的なのは、採用担当者が多忙で、電話をかけてもなかなかつかまらない場合です。何度も電話をかけても不在が続くようであれば、まずはメールで一報を入れ、「お電話を差し上げましたがご不在でしたので、メールにて失礼いたします」と前置きした上で、辞退の旨を伝えるのが良いでしょう。この場合、メールを送った後に、改めて電話をかけるのがより丁寧な対応です。

また、企業の文化として、普段からメールでのコミュニケーションが主体である場合も、メール連絡が受け入れられやすいでしょう。特に、外資系企業やIT系のベンチャー企業などでは、電話よりも迅速で記録に残るメールでのやり取りを好む傾向があります。これまでの選考過程での担当者とのやり取りを振り返り、コミュニケーションのスタイルを判断するのも一つの方法です。

さらに、電話で辞退を伝えた後、確認と記録のために改めてメールを送るという使い方も非常に丁寧な対応です。電話での口頭のやり取りだけでは、「言った」「言わない」のトラブルに発展する可能性が万が一にも考えられます。電話で誠意を伝えた上で、「先ほどお電話でもお伝えいたしましたが、改めてメールにて失礼いたします」という形で文書としても残しておくことで、双方にとって安心材料となります。

メールのみで連絡を完結させる場合は、件名だけで用件が明確にわかるようにし、本文は簡潔かつ最大限の敬意を払った内容にすることが不可欠です。 「【内定辞退のご連絡】氏名」のように、一目で重要性がわかる件名にし、本文では内定へのお礼と辞退へのお詫びを丁寧に記述しましょう。

ただし、メールでの連絡は、あくまで電話ができない場合の次善の策、あるいは補助的な手段と位置づけておくのが無難です。可能な限り、まずは電話での連絡を試みる姿勢が、あなたの評価を守ることにつながります。

転職エージェントを利用している場合は担当者へ連絡

転職エージェントを通じて応募し、内定を得た場合は、辞退の連絡を自分から直接企業に行うのはマナー違反です。必ず、担当のキャリアアドバイザー(エージェント)に連絡してください。

これには明確な理由があります。転職エージェントは、あなたと企業との間に立つ仲介役です。採用が成功した場合、企業はエージェントに成功報酬を支払います。つまり、エージェントと企業は重要なビジネスパートナーなのです。あなたが直接企業に辞退の連絡をしてしまうと、エージェントの顔に泥を塗る形になり、彼らがこれまで築き上げてきた企業との信頼関係を損なうことになりかねません。

辞退を決めたら、速やかに担当アドバイザーに電話かメールで連絡しましょう。その際、辞退理由については、できるだけ正直に伝えることをお勧めします。アドバイザーはあなたのキャリアのパートナーであり、正直な理由を伝えることで、今後の求人紹介やキャリア相談に活かしてくれる可能性があります。例えば、「A社の〇〇という点に魅力を感じた」と伝えれば、「それならば、こういった企業も合うかもしれません」と、より精度の高い提案につながるかもしれません。

連絡を受けたアドバイザーは、あなたの代理として、企業に辞退の旨を伝えてくれます。プロとして企業との関係性を保ちながら、上手に話をまとめてくれるため、あなたが直接企業と気まずいやり取りをする必要がありません。これは、エージェントを利用する大きなメリットの一つです。

辞退の連絡をエージェントに任せている間、あなたは気持ちを切り替え、入社を決めた企業への準備に集中できます。転職エージェントを利用している場合は、「連絡はすべてエージェント経由で行う」というルールを徹底しましょう。

内定辞退で守るべき3つのマナー

企業の営業時間内に連絡する、内定へのお礼と辞退へのお詫びを伝える、誠実な態度を心がける

内定辞退は、応募者に認められた権利ではありますが、企業にとっては採用計画の見直しを迫られる重大な出来事です。そのため、連絡する際には、相手への配慮を最大限に示す必要があります。ここでは、社会人として最低限守るべき3つの重要なマナーについて、具体的な行動指針と共に解説します。これらのマナーを守ることが、円満な辞退と、あなた自身の社会的信用を維持するために不可欠です。

① 企業の営業時間内に連絡する

内定辞退の連絡は、必ず企業の営業時間内に行うのが鉄則です。 これは、ビジネスにおける最も基本的な時間感覚であり、相手への配慮の第一歩と言えます。深夜や早朝、休日に電話をかけたり、メールを送ったりする行為は、相手のプライベートな時間を侵害する可能性があり、「常識がない」という印象を与えかねません。

では、営業時間内であればいつでも良いのでしょうか。より丁寧な対応を目指すなら、連絡する時間帯にも配慮しましょう。具体的には、以下の時間帯は避けるのが賢明です。

  • 始業直後(例:9:00〜10:00): 朝礼やメールチェック、その日の業務の段取りなどで、最も慌ただしい時間帯です。この時間に連絡を入れると、担当者が落ち着いて話を聞けない可能性があります。
  • 昼休み(例:12:00〜13:00): 担当者が不在である可能性が非常に高い時間帯です。たとえオフィスに誰かが残っていても、休憩中の相手を煩わせることになります。
  • 終業間際(例:17:00以降): その日の業務のまとめや翌日の準備で忙しくしていることが多い時間帯です。また、退社直前に重い話を聞かされるのは、誰にとっても気分の良いものではありません。

これらの時間帯を避けると、連絡に適した時間帯は、比較的業務が落ち着いている午前10時過ぎから12時前、または午後の2時から4時頃となります。もちろん、これはあくまで一般的な目安です。企業の業種や文化によって最適な時間帯は異なるため、絶対的な正解はありません。しかし、相手が落ち着いて対応できる時間帯を意識するという心遣いが、あなたの誠実さを伝える上で重要な要素となります。

メールで連絡する場合も同様です。メールは相手のタイミングで確認できるツールではありますが、送信する時間には配慮が必要です。営業時間内に送信することで、「ビジネスマナーをわきまえている」という印象を与えることができます。もし、辞退を決意したのが深夜だったとしても、すぐに送信するのではなく、翌朝の営業時間になってから送信する、あるいはメールの予約送信機能を活用するといった配慮をしましょう。

時間を守ることは、相手への敬意の表れです。 この基本的なマナーを徹底することが、円満な辞退への第一歩となります。

② 内定へのお礼と辞退へのお詫びを伝える

内定辞退の連絡をする際、言いにくさから「辞退します」という用件だけを単刀直入に伝えてしまいがちです。しかし、それではあまりにも一方的で、相手に不快感を与えてしまいます。辞退の意思を伝える前後に、「感謝」と「謝罪」の言葉を必ず添えることが、極めて重要です。

具体的には、「お礼 → 辞退の意思 → お詫び」という構成で伝えるのが最もスムーズで丁寧です。

まず、内定をいただいたことへの「お礼」を伝えます。
「この度は、内定のご連絡をいただき、誠にありがとうございました。」
「〇〇様(採用担当者)には、選考を通じて大変お世話になりました。貴重なお時間を割いていただいたこと、心より感謝申し上げます。」
といった言葉です。企業は、あなたのことを高く評価し、多くの時間と労力をかけて選考してくれました。その事実に対して、まずは真摯に感謝の意を示すことが、対話の潤滑油となります。この一言があるだけで、相手の受け止め方は大きく変わります。

次に、辞退の意思を明確に、しかし丁寧に伝えます。
「大変申し上げにくいのですが、誠に勝手ながら、この度の内定を辞退させていただきたく、ご連絡いたしました。」
ここでは、曖昧な表現は避け、「辞退させていただきたい」とはっきりと意思を伝えることが重要です。

そして最後に、辞退することへの「お詫び」を述べます。
「御社には多大なご迷惑をおかけすることとなり、大変申し訳ございません。」
「貴重なお時間をいただいたにもかかわらず、このような結果となり、誠に申し訳なく存じます。」
といった言葉です。あなたの辞退によって、企業の採用計画に影響を与え、担当者の期待を裏切る形になったことに対して、心からお詫びの気持ちを伝えます。

この「感謝」と「謝罪」は、電話であってもメールであっても、必ずセットで伝えるべき要素です。たとえ辞退理由が企業側にあったとしても(例:提示された条件が想定と違ったなど)、その不満を口にするのは得策ではありません。 辞退の場は、交渉や不満を表明する場ではないのです。あくまでも、自分の都合で辞退させていただく、という謙虚な姿勢を貫くことが、円満な解決につながります。

③ 誠実な態度を心がける

内定辞退の連絡において、最も根底にあるべきなのは「誠実な態度」です。 小手先のテクニックやマニュアル通りの言葉遣い以上に、あなたの真摯な姿勢が相手に伝わることが重要です。誠実な態度とは、具体的にどのような行動を指すのでしょうか。

一つは、嘘をつかないことです。辞退理由を詳細に語る必要はありませんが、聞かれた際に明らかに矛盾するような嘘をつくのは避けるべきです。例えば、「親の介護で地元に戻ることになった」と嘘をついた場合、後日、SNSなどで都内の別の企業に入社したことがわかってしまえば、あなたの信用は失墜します。業界は意外と狭いものです。どこでどのような形で、辞退した企業と再び関わることになるかわかりません。その時に、「あの時、嘘をつかれた」という印象が残っていると、大きな不利益につながる可能性があります。

二つ目は、曖昧な態度をとらないことです。企業側から引き止められた際に、「少し考えさせてください」などと期待を持たせるような返答をするのは避けるべきです。辞退すると決めたのであれば、その意思が固いことを、丁寧な言葉で、しかし毅然とした態度で伝えましょう。「大変ありがたいお話ですが、熟慮を重ねた上での決断ですので、今回は辞退させていただきたく存じます」といったように、感謝を示しつつも、決意が変わらないことをはっきりと伝える必要があります。

三つ目は、相手を責めるような言動をしないことです。「面接官の態度が不満だった」「提示された給与が低すぎる」といったネガティブな理由は、たとえ事実であったとしても、それを辞退の場で口にするのはマナー違反です。相手に不快な思いをさせるだけで、何のメリットもありません。あくまで「自分の都合」として、話を終えるのが賢明です。

最も不誠実な態度は、連絡を無視すること、いわゆる「バックレ」です。 これは社会人として絶対にあってはならない行為であり、あなたのキャリアに深刻な傷を残す可能性があります。企業間のネットワークやリファレンスチェックなどで悪評が広まり、将来の転職活動に悪影響を及ぼすことも考えられます。

誠実な態度は、言葉遣いや表情、声のトーンなど、細部に宿ります。電話であれば、落ち着いた声でハキハキと話すこと。メールであれば、誤字脱字のない、丁寧な文章を心がけること。そうした一つひとつの積み重ねが、あなたの誠実さを相手に伝え、円満な辞退を実現させるのです。

【例文あり】電話で内定辞退を伝える方法

挨拶と自己紹介、採用担当者への取り次ぎ依頼、改めて挨拶と内定へのお礼、辞退の意思を明確に伝える、辞退理由を簡潔に述べる、お詫びの言葉を述べる、結びの挨拶

内定辞退の連絡手段として最も望ましいとされる電話ですが、いざかけるとなると緊張してしまうものです。何をどのような順番で話せば良いのか、担当者が不在だったらどうすれば良いのか。ここでは、電話で内定辞退を伝える際の具体的な流れと会話例文、そして押さえておくべきポイントを詳しく解説します。事前に準備しておくことで、当日は落ち着いて対応できるようになります。

電話で伝える際の流れ

電話で内定辞退を伝える際は、要点を簡潔に、かつ丁寧に話すことが重要です。以下の7つのステップを意識すると、スムーズに会話を進めることができます。

  1. 挨拶と自己紹介
    まずは、自分の名前と、いつ、どのポジションで内定をもらったかを伝えます。「お世話になっております。〇月〇日に、〇〇職の内定のご連絡をいただきました、〇〇(フルネーム)と申します。」と、はっきりと名乗りましょう。
  2. 採用担当者への取り次ぎ依頼
    電話に出た方が担当者とは限りません。採用担当者の部署と氏名を伝え、取り次ぎをお願いします。「恐れ入ります、採用ご担当の〇〇部、〇〇様はいらっしゃいますでしょうか。」と尋ねます。
  3. 担当者につながったら、改めて挨拶と内定へのお礼
    担当者に代わったら、再度自己紹介をし、まずは内定に対する感謝の気持ちを伝えます。「お忙しいところ恐れ入ります。私、先日〇〇職で内定をいただきました〇〇です。この度は、内定のご連絡、誠にありがとうございました。」
  4. 辞退の意思を明確に伝える
    感謝を伝えた後、本題に入ります。ここで結論を先延ばしにせず、辞退の意思を明確に伝えます。「大変申し上げにくいのですが、誠に勝手ながら、この度の内定を辞退させていただきたく、ご連絡いたしました。」
  5. 辞退理由を簡潔に述べる(聞かれた場合)
    多くの場合、辞退理由を尋ねられます。詳細に話す必要はなく、「一身上の都合」で十分です。もし、より具体的な理由を聞かれた場合は、後述する回答例を参考に、当たり障りのない表現で簡潔に答えます。「熟慮の結果、今回は別の企業とのご縁を感じ、そちらにお世話になることを決断いたしました。」など。
  6. お詫びの言葉を述べる
    辞退によって迷惑をかけることへのお詫びを伝えます。「御社には大変ご迷惑をおかけする形となり、誠に申し訳ございません。貴重なお時間を割いていただいたにもかかわらず、このようなお返事となり、重ねてお詫び申し上げます。」
  7. 結びの挨拶
    最後に、企業の発展を祈る言葉を添えて、丁寧に電話を切ります。「末筆ではございますが、御社の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。それでは、失礼いたします。」

この流れをメモなどに書き出しておき、手元に置いておくと、緊張して頭が真っ白になってしまった時でも安心です。

電話での会話例文

上記の流れに沿った、具体的な会話の例文を紹介します。これを参考に、ご自身の言葉でアレンジしてみてください。


あなた: 「お世話になっております。私、先日、営業職の内定のご連絡をいただきました、山田太郎と申します。恐れ入ります、人事部の鈴木様はいらっしゃいますでしょうか。」

受付担当者: 「山田太郎様ですね。少々お待ちください。」

(担当者へ代わる)

採用担当者(鈴木様): 「お電話代わりました、人事の鈴木です。」

あなた: 「鈴木様、お忙しいところ恐れ入ります。私、先日、営業職の内定をいただきました山田太郎です。この度は、内定のご連絡、誠にありがとうございました。」

採用担当者(鈴木様): 「山田さん、ご連絡ありがとうございます。どうされましたか?」

あなた: 「大変申し上げにくいのですが、誠に勝手ながら、この度の内定を辞退させていただきたく、ご連絡いたしました。」

採用担当者(鈴木様): 「そうですか…、残念です。差し支えなければ、辞退の理由をお聞かせいただけますでしょうか。」

あなた: 「はい。真剣に検討を重ねた結果、今回は別の企業とのご縁を感じ、そちらの会社に入社することを決断いたしました。自分の適性や将来のキャリアプランを考えた上での結論です。」

採用担当者(鈴木様): 「そうですか。山田さんのご決断であれば、仕方がありませんね。承知いたしました。」

あなた: 「貴重なお時間を割いていただいたにもかかわらず、このような形となり、大変申し訳ございません。御社には多大なご迷惑をおかけしますことを、心よりお詫び申し上げます。」

採用担当者(鈴木様): 「いえいえ、こちらこそ、ご期待に沿えず申し訳ありませんでした。ご連絡いただき、ありがとうございました。」

あなた: 「とんでもございません。最後になりますが、鈴木様には選考を通じて大変お世話になりました。御社の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。それでは、失礼いたします。」


電話をかける際のポイント

静かな環境からかける

電話をかける際は、必ず周囲の雑音が入らない静かな環境を選びましょう。 駅のホームや往来の激しい道端、騒がしいカフェなどから電話をかけるのは絶対にNGです。相手にとって聞き取りにくいだけでなく、「重要な連絡なのに、こんな場所からかけてくるのか」と、あなたの真剣さを疑われてしまいます。

自宅の静かな部屋など、会話に集中できる場所を確保してください。また、電波状況が良いことも事前に確認しておきましょう。会話の途中で電話が途切れてしまうのは、非常に気まずい状況を生み出します。クリアな音声で、落ち着いて話せる環境を整えることが、誠意を伝えるための第一歩です。

担当者が不在の場合の対応

電話をかけても、採用担当者が会議中であったり、外出していたりして不在の場合もあります。その際は、電話に出た方に担当者の戻り時間を確認し、「それでは、その頃に改めてお電話させていただきます」と伝え、自分からかけ直すのが基本的なマナーです。

「戻られましたら、お電話をいただきたいのですが」と、相手からの折り返しを要求するのは、相手の手を煩わせることになるため避けるべきです。辞退というお願いをする立場上、手間はすべてこちらが引き受けるという姿勢が大切です。

もし、何度か電話をしてもタイミングが合わず、なかなかつかまらない場合は、次の手段を考えます。まず、電話口の方に「何度かお電話させていただいているのですが、ご多忙のようですので、もしよろしければメールにてご連絡させていただいてもよろしいでしょうか」と断りを入れた上で、メールを送るという方法があります。あるいは、担当者の不在が続く旨をメールで一報入れ、「改めてお電話させていただきます」と伝えておくのも良いでしょう。何もしないで放置するのではなく、状況に応じて柔軟に対応することが求められます。

【例文あり】メールで内定辞退を伝える方法

メールの件名の書き方、メール本文の例文、メールを送る際のポイント

電話での連絡が基本マナーであるものの、担当者が不在の場合や、企業の文化によってはメールでの連絡が適切なケースもあります。メールで連絡する際は、電話以上に文面に気を配り、丁寧さと誠実さが伝わるように工夫する必要があります。ここでは、メールで内定辞退を伝える際の件名の書き方から本文の例文、送信時のポイントまでを具体的に解説します。

メールの件名の書き方

採用担当者は、日々多くのメールを受け取っています。そのため、メールの件名は、一目で「誰から」「何の用件か」が明確にわかるようにすることが非常に重要です。 件名が曖昧だと、他のメールに埋もれてしまったり、開封が後回しにされたり、最悪の場合、迷惑メールと間違えられて見てもらえない可能性すらあります。

内定辞退の連絡における件名のポイントは、「要件」と「氏名」を必ず入れることです。

【良い件名の例】

  • 内定辞退のご連絡/〇〇 〇〇(氏名)
  • 【内定辞退のご連絡】〇〇 〇〇(氏名)
  • 〇〇職の内定辞退のご連絡/〇〇 〇〇(氏名)

このように記載すれば、担当者は件名を見ただけで重要かつ緊急性の高い連絡であると認識し、すぐにメールを開いてくれる可能性が高まります。

【悪い件名の例】

  • 「お世話になっております」
  • 「ご連絡」
  • 「〇〇(氏名)です」
  • (件名なし)

上記のような件名は、内容が全くわからず、スパムメールと間違われるリスクもあります。必ず具体的で分かりやすい件名をつけましょう。

メール本文の例文

メール本文は、ビジネスメールの基本構成に則り、丁寧な言葉遣いを心がけます。「宛名」「挨拶」「内定へのお礼」「辞退の意思表示」「辞退理由」「お詫び」「結びの挨拶」「署名」の要素を漏れなく含めることが大切です。


件名: 内定辞退のご連絡/〇〇 〇〇(氏名)

本文:

株式会社〇〇
人事部 〇〇様

お世話になっております。
先日、〇〇職の内定のご連絡をいただきました、〇〇 〇〇(氏名)です。

この度は、内定のご連絡をいただき、誠にありがとうございました。
また、〇〇様には選考を通じて大変お世話になりましたこと、心より感謝申し上げます。

このような素晴らしい機会をいただいたにもかかわらず大変恐縮なのですが、
誠に勝手ながら、この度の内定を辞退させていただきたく、ご連絡いたしました。

熟慮を重ねた結果、自身の適性やキャリアプランなどを総合的に検討し、
今回は別の企業とのご縁を大切にしたいという結論に至りました。

貴社には大変ご迷惑をおかけいたしますこと、心よりお詫び申し上げます。
選考に貴重なお時間を割いていただいたにもかかわらず、
このようなご連絡となりますことを何卒ご容赦いただきたく存じます。

末筆ではございますが、貴社の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。


署名
氏名:〇〇 〇〇(フルネーム)
郵便番号:〒xxx-xxxx
住所:〇〇県〇〇市〇〇町x-x-x
電話番号:xxx-xxxx-xxxx
メールアドレス:xxxxx@xxxx.com


メールを送る際のポイント

件名だけで内容が分かるようにする

前述の通り、件名はメールの「顔」です。多忙な採用担当者の受信トレイの中で、あなたのメールが確実に目に留まり、速やかに開封・確認してもらうためには、件名だけで「重要事項」であることが伝わる工夫が不可欠です。

「内定辞退」というネガティブなキーワードを入れることに抵抗を感じるかもしれませんが、これを曖昧な表現にしてしまうと、かえって発見が遅れ、企業側にかける迷惑が大きくなってしまいます。迅速な連絡がマナーである以上、件名も迅速な確認を促すものであるべきです。

【】(隅付き括弧)を使って「【重要】」や「【内定辞退のご連絡】」と強調するのも、視認性を高める上で有効なテクニックです。相手の立場に立ち、どうすれば最も分かりやすく、迅速に伝わるかを考えることが重要です。

署名を忘れずに入れる

ビジネスメールにおいて、署名は名刺代わりとなる重要な要素です。 特に内定辞退のようなフォーマルな連絡では、署名が抜けていると非常に締まりのない、失礼な印象を与えてしまいます。

署名には、以下の情報を正確に記載しましょう。

  • 氏名(フルネーム)
  • 住所(郵便番号から)
  • 電話番号(日中連絡がつきやすい番号)
  • メールアドレス

これらの情報が記載されていれば、企業側があなたに連絡を取りたいと思った際に、すぐに連絡先を確認できます。普段使っているメールソフトの署名設定を改めて確認し、情報が古くなっていないか、誤りがないかを送信前に必ずチェックしましょう。

メールの本文を丁寧に書き上げても、最後の署名がなければ完成とは言えません。細部まで気を配ることが、あなたの誠実さを示すことにつながります。

内定辞退の理由の伝え方

辞退理由は正直に話す必要はない、「一身上の都合」で問題ない、具体的な理由を聞かれた場合の回答例

内定辞退の連絡をする際、電話でもメールでも、ほぼ確実に聞かれるのが「辞退の理由」です。この質問に対して、どこまで正直に話すべきか、どのように答えれば角が立たないかと悩む方は非常に多いでしょう。ここでは、辞退理由を伝える際の基本的な考え方と、具体的な回答例を紹介します。

辞退理由は正直に話す必要はない

結論から言うと、内定を辞退する本当の理由を、正直に話す必要は全くありません。 むしろ、正直に話しすぎることが、かえって相手を不快にさせ、円満な辞退から遠ざかってしまうケースも少なくありません。

例えば、以下のようなネガティブな理由が本音であったとしても、それをストレートに伝えるのは避けるべきです。

  • 「提示された給与が、他社より低かったため」
  • 「面接官の態度や印象が悪く、社風が合わないと感じたため」
  • 「インターネットでの評判が悪かったため」
  • 「業務内容が、思っていたよりも魅力的ではなかったため」

これらの理由は、たとえ事実であったとしても、伝えたところで企業側にとってはただの批判や不満にしか聞こえません。相手を傷つけたり、不快な気持ちにさせたりするだけで、あなたにとっても何のメリットもありません。辞退の連絡は、交渉や意見を述べる場ではなく、あくまで「お詫び」と「感謝」を伝え、関係性を円満に終わらせるための手続きです。

もちろん、キャリアアップに繋がるようなポジティブな理由であれば、正直に伝えても問題ない場合もあります。例えば、「より専門性を高められる環境が見つかった」「海外事業に携われるチャンスを得た」といった理由であれば、相手も納得しやすいでしょう。しかし、その場合でも、辞退する企業を間接的に批判するようなニュアンスにならないよう、言葉選びには細心の注意が必要です。 「御社ではそれができない」と聞こえるような伝え方は避けましょう。

基本的には、相手に不快感を与えず、スムーズに話を終えることを最優先に考えるべきです。そのために最も有効なのが、当たり障りのない、一般的な表現を用いることです。

「一身上の都合」で問題ない

内定辞退の理由として、最も一般的で、かつ最も無難なのが「一身上の都合により」という表現です。 この言葉は、退職届などでも使われる定型句であり、「個人的な理由なので、詳細についてはお話しできません」というニュアンスを含んでいます。

ビジネスシーンにおいて、この「一身上の都合」という言葉は非常に便利で、相手も「それ以上は深く詮索しない」という暗黙の了解があります。そのため、辞退理由を聞かれた際に、「誠に申し訳ございませんが、一身上の都合により、辞退させていただきたく存じます」と答えれば、ほとんどの場合はそれで納得してもらえます。

なぜこの表現が広く受け入れられているのでしょうか。それは、個人のプライバシーや意思決定を尊重する日本のビジネス文化が背景にあります。企業側も、応募者が複数の選択肢の中から最終的な決断を下す権利があることを理解しています。そのため、無理に詳細な理由を聞き出すことはせず、形式的な理由として「一身上の都合」を受け入れるのが一般的です。

この一言で済ませることに、罪悪感や後ろめたさを感じる必要は全くありません。 むしろ、余計なことを言って波風を立てるよりも、この魔法の言葉を使ってスムーズに話を終わらせることの方が、お互いにとって良い結果をもたらします。

具体的な理由を聞かれた場合の回答例

「一身上の都合」と伝えても、採用担当者によっては、もう少し具体的な理由を尋ねてくる場合があります。これは、今後の採用活動の参考にしたいという意図があることが多く、決してあなたを問い詰めているわけではありません。このような場合でも、慌てずに対応できるよう、いくつか当たり障りのない回答の引き出しを持っておくと安心です。

ポイントは、嘘をつくのではなく、事実の中から当たり障りのない部分だけを切り取って話すことです。そして、あくまで「自分が総合的に判断した結果」というニュアンスを強調し、辞退する企業への批判と受け取られないように配慮します。

以下に、具体的な回答例をいくつか示します。

  • 他社に入社を決めたことを伝える場合
    • 「他社からも内定をいただいており、慎重に検討を重ねた結果、今回はそちらの企業とのご縁を感じ、入社を決断いたしました。」
    • 「自身のキャリアプランを改めて考え直した際に、より自分の目指す方向性に合致していると感じた別の企業にお世話になることにいたしました。」
  • 適性や方向性の違いを伝える場合
    • 「内定をいただいた後に、改めて自分の適性について深く考えた結果、大変恐縮ながら、別の分野で挑戦してみたいという気持ちが強くなりました。」
    • 「素晴らしい環境をご提示いただきましたが、自分の能力を最大限に活かせるのは、別の職務内容ではないかという結論に至りました。」
  • 家族の事情などを理由にする場合(事実である場合のみ)
    • 「家族と相談した結果、今回は別の選択をすることになりました。」

これらの回答は、いずれも「相手を否定せず、自分の選択として決めた」という形になっています。決して、辞退する企業の魅力が劣っていたというような伝え方をしてはいけません。 あくまで、最終的な決断の主体は自分自身にあるという姿勢を貫くことが、円満な辞退の鍵となります。

転職の内定辞退に関するよくある質問

内定辞退を伝えたら怒られない?、企業から引き止められたらどうする?、一度した内定辞退は取り消せる?、辞退の連絡を無視するとどうなる?、辞退の連絡に返信がない場合の対処法、他社の選考結果を待ってほしい場合はどう伝える?、お詫びの品や手紙は必要?

内定辞退という非日常的な状況では、様々な疑問や不安が浮かんでくるものです。ここでは、多くの人が抱きがちな質問に対して、Q&A形式で分かりやすく回答していきます。これらの回答を参考に、落ち着いて適切な対応を心がけましょう。

内定辞退を伝えたら怒られない?

A. 基本的に、怒鳴られたり、高圧的な態度を取られたりすることは稀です。

多くの採用担当者は、内定辞退者が出ることをある程度想定して採用活動を行っています。応募者が複数の企業を比較検討するのは当然のことだと理解しているため、辞退の連絡を受けても、事務的に「承知しました」と対応してくれるケースがほとんどです。

ただし、ごく稀に、感情的になって厳しい言葉を投げかける担当者がいる可能性もゼロではありません。特に、内定承諾後の辞退や、連絡が大幅に遅れた場合などは、相手の期待を大きく裏切ることになるため、お叱りを受ける可能性が高まります。

万が一、高圧的な態度を取られたとしても、こちらも感情的にならず、冷静に「ご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません」と、ひたすら丁寧にお詫びする姿勢を貫きましょう。 相手の土俵に乗らず、誠実な態度を保つことが重要です。理不尽な要求をされた場合は、毅然とした態度で断る勇気も必要ですが、基本は低姿勢に徹するのが賢明です。

企業から引き止められたらどうする?

A. 感謝を述べつつ、辞退の意思が固いことを改めて伝えましょう。

企業によっては、辞退を伝えた際に「カウンターオファー」と呼ばれる引き止め交渉をしてくることがあります。例えば、「給与を〇万円アップするから考え直してくれないか」「希望していた部署への配属を確約する」といった条件を提示してくるケースです。

このような提案をされた場合は、まず「大変ありがたいお話をいただき、誠にありがとうございます」と、自分のために譲歩案を提示してくれたことに対して、真摯に感謝の気持ちを伝えます。 その上で、「しかし、熟慮を重ねた上での決断ですので、大変申し訳ございませんが、今回は辞退させていただきたく存じます」と、辞退の意思が変わらないことを、丁寧かつ明確に伝えましょう。

一度辞退を決めた会社に、条件の変更だけで入社を決めるのは慎重に考えるべきです。なぜなら、給与や配属といった条件面の問題が解決しても、元々感じていた社風への違和感など、根本的な問題は解決しない可能性が高いからです。その場しのぎで決断を変えると、後悔につながることも少なくありません。 自分の決断に自信を持ち、毅然とした態度で対応しましょう。

一度した内定辞退は取り消せる?

A. 原則として、一度伝えた内定辞退を取り消すことはできません。

「内定を辞退したけれど、やはり入社したい」と思っても、その希望が通る可能性は極めて低いと考えるべきです。あなたが辞退の連絡をした時点で、企業は採用活動を次のフェーズに進めています。具体的には、他の候補者に内定を出したり、採用活動そのものを終了させたりしている可能性が非常に高いです。

企業側からすれば、一度辞退した応募者を再び受け入れることは、「また心変わりするのではないか」というリスクを伴います。そのため、よほどの特別な事情がない限り、辞退の撤回が認められることはありません。

内定辞退の連絡をする際は、「もう後戻りはできない」という覚悟を持って、慎重に決断を下す必要があります。

辞退の連絡を無視するとどうなる?

A. 社会人としての信用を失い、将来のキャリアに深刻な悪影響を及ぼす最悪の選択です。

いわゆる「バックレ」と呼ばれる、連絡を一切せずに辞退する行為は、絶対にやってはいけません。これは、ビジネスマナー違反というレベルではなく、人としての信頼を根底から覆す行為です。

連絡を無視すると、企業は安否を心配して何度も電話やメールをしてくるでしょう。それでも連絡がつかなければ、緊急連絡先である実家などに連絡がいく可能性もあります。これは、あなた自身だけでなく、家族にも多大な迷惑と心配をかけることになります。

また、業界はあなたが思うよりも狭いものです。 採用担当者間のネットワークや、将来の取引先、同僚などを通じて、「連絡なしに辞退した人物」という悪評が広まるリスクがあります。その評判が、将来の転職活動やビジネスチャンスにおいて、大きな足かせとなる可能性は十分に考えられます。一時的な気まずさから逃れるために、自分の将来に大きな傷をつけるのは、あまりにも代償が大きい行為です。

辞退の連絡に返信がない場合の対処法

A. メールの場合、2〜3営業日待っても返信がなければ、電話で確認しましょう。

メールで内定辞退の連絡をしたものの、企業から何の返信もないと、「本当に届いているのだろうか」「無視されているのではないか」と不安になるものです。

まずは、送信後2〜3営業日は待ってみましょう。採用担当者が多忙であったり、社内での確認に時間がかかっていたりする可能性があります。それでも返信がない場合は、メールが見落とされているか、迷惑メールフォルダに入っている可能性も考えられます。

その際は、メールを送った旨を前置きした上で、電話で確認するのが最も確実です。 「〇月〇日に、メールにて内定辞退のご連絡を差し上げたのですが、ご確認いただけておりますでしょうか」と、丁寧な口調で問い合わせましょう。これにより、確実に辞退の意思を伝えることができます。

他社の選考結果を待ってほしい場合はどう伝える?

A. これは「内定辞退」ではなく、「内定承諾の回答期限の延長交渉」になります。正直に状況を伝えましょう。

第一志望の企業の選考結果が出る前に、第二志望の企業から内定が出て、回答を迫られるケースはよくあります。この場合、焦って内定を辞退したり、承諾したりするのではなく、まずは正直に採用担当者に状況を伝え、回答期限を延ばしてもらえないか相談しましょう。

「内定のご連絡、誠にありがとうございます。大変恐縮なのですが、現在、もう一社選考が進んでいる企業がございまして、そちらの結果が〇月〇日に出る予定です。つきましては、大変恐縮ですが、回答期限を〇月〇日までお待ちいただくことは可能でしょうか」
といったように、「他社の選考状況」と「いつまで待ってほしいのか」を具体的に伝えることが重要です。 誠実にお願いすれば、数日から1週間程度の延長であれば認めてもらえるケースは少なくありません。無断で回答を遅らせるのではなく、必ず事前に相談しましょう。

お詫びの品や手紙は必要?

A. 原則として、お詫びの品や手紙は不要です。

内定辞退で多大な迷惑をかけたお詫びとして、菓子折りなどの品物や、手書きの手紙を送るべきかと考える方もいるかもしれません。しかし、基本的にそのようなものは不要です。

丁寧な電話やメールでの連絡で、感謝と謝罪の気持ちをきちんと伝えれば、それだけで十分誠意は伝わります。過剰な対応は、かえって相手に「受け取るべきか」「お返しをすべきか」などと余計な気を使わせてしまい、かえって迷惑になる可能性があります。

特に親しい間柄になったなど、よほどの事情がない限りは、品物や手紙を送る必要はありません。形式的な物よりも、心のこもった言葉で誠意を伝えることを優先しましょう。

まとめ

転職活動における内定辞退は、決して珍しいことではありません。応募者には職業選択の自由という権利があり、複数の選択肢の中から最適なキャリアを選ぶのは当然のことです。しかし、その権利を行使する際には、選考に多大な時間と労力を割いてくれた企業への感謝と敬意を忘れてはなりません。伝え方一つで、円満に関係を終えることもできれば、将来に禍根を残すことにもなりかねない、非常にデリケートなプロセスです。

本記事で解説してきた重要なポイントを、最後にもう一度整理します。

  • 連絡のタイミング: 辞退の意思が固まったら、1日でも早く連絡するのが鉄則。 内定通知から1週間以内、かつ回答期限内に連絡するのが最低限のマナーです。
  • 承諾後の辞退: 内定承諾書を提出した後でも、法律上(民法第627条)は辞退可能です。損害賠償を請求される可能性は極めて低いですが、より一層の誠意をもった迅速な対応が求められます。
  • 連絡手段: 原則は、直接声で誠意を伝えられる「電話」が基本マナーです。 電話が繋がらない場合や、企業の文化によってはメールも許容されますが、その際は件名や文面に細心の注意を払いましょう。転職エージェント経由の場合は、必ず担当アドバイザーに連絡します。
  • 守るべきマナー:企業の営業時間内に連絡する」「内定へのお礼と辞退へのお詫びを必ず伝える」「嘘や曖昧な態度は避け、誠実な姿勢を貫く」という3点を徹底しましょう。
  • 辞退理由: 詳細を正直に話す必要はなく、「一身上の都合」で十分です。もし深掘りされた場合は、相手を否定せず、あくまで自分の選択であることを強調する形で、当たり障りのない回答を心がけましょう。

内定辞退の連絡は、誰にとっても気が重いものです。しかし、このプロセスを誠実に、そして丁寧に行うことは、社会人としてのあなたの信頼性を証明する機会でもあります。業界は意外と狭く、辞退した企業と将来、取引先や顧客として再会する可能性もゼロではありません。その時に、お互いが気持ちよくビジネスできる関係性を保つためにも、円満な辞退を心がけることが極めて重要です。

この記事で紹介したマナーと例文を参考に、自信を持って、そして誠意を込めて連絡を行ってください。そうすることで、あなたは罪悪感やストレスから解放され、晴れやかな気持ちで新しいキャリアの第一歩を踏み出すことができるはずです。